ネコバスはこない
「デイリーポータルZ」に「書き出し小説大賞」という部門ある。
小説全体が対象なのではなく、「かきだし」だけをつのったものだ。
第50回目の秀作に
「狐火躍る休耕田の前で、呑気な馬鹿と深刻な阿呆がバスを待っていた。」
がえらばれていた。
これ自体をいい「かきだし」と、評価したかったわけではない。
よかったのは、これにつけられたコメントだ。
「ネコバスは来ない」。
すばらしい。
いくらまっていても、ネコバスがくるとはかぎらないのだ。
トトロに影響をうけた子どもたちの何人かは、
ひとけのないバス停でまっていると、
いつかはネコバスがきてくれるとおもいこんでいる。
チッチッチ。世の中そんなにあまいわけがない。
ネコバスは自分のあそびにいそがしくて、
どこかとおいところをかけまわっているのだ。
おなじように、トトロだってそこらへんのヤブに
いつもひそんでいるわけではない。
こまったことがあっても、ドラえもんみたいに
すぐにたすけてもらえるとおもったら おおまちがいなのだ。
「ネコバスは来ない」。
だから自分でなんとかするんだよ。
(吉田 淳)